ロッテリアは食べた後でも返金に応じる外食産業では珍しい試みを開始した。果たしてそのマーケティング戦略の背景にあるもの
とは?
ロッテリアは7月16日に「絶妙ハンバーガー」(360円)を発売した。絶妙ハンバーガーは、肉の種類や部位を厳選した上に、トマトやたまねぎなどの野菜も新鮮なものにこだわった「絶品ハンバーガー」シリーズの第2弾だ。
ロッテリアとしては商品の品質に絶対的な自信を持って送り出す新製品だけにその販売手法にも自信の表れが見て取れる。そして「絶妙ハンバーガー」を食べてみて満足しなければ全額返金に応じるというのだ。
全額返金保証については他の業界で見かけることはあるが、外食産業では実に珍しい試みである。食品では返品に応じるとその商品を再販するという ことが不可能なため、丸々損失につながる。ただ、ロッテリアでは通常商品に対するクレームが1%~5%のために、最大でも5%程度の低い返金率を見込んで いる。
それでは、なぜロッテリアは購入後の返金に応じるのだろうか? 実はこの手法はマーケティングでは「リスク・リバーサル」と呼ばれて、多くの業界で活用されている。実際に弊社でもこのリスク・リバーサルを行ったことがある。
企業がこのリスク・リバーサルを活用する理由は顧客の購入に対する障害を低くすることにある。消費者というのは、特に初めての商品やサービスを利用する際に、常に不安が付きまとうものである。
「この商品やサービスは本当に自分の望むものだろうか?」「本当に支払う金額以上の価値があるのかだろうか?」などの不安が購入をためらわせ、売り手の企業側にとってその消費者の不安は取りも直さず販売機会の喪失につながっていくことになる。
そこで、“一度購入しても気に入らなければ返品してもOKですよ”とリスク・リバーサルを提案すれば、消費者は購入に対するリスクが全くなくなることになり、お試しとして気軽に購入できるようになる。
現在の消費形態は消費者側に全リスクを背負わせるものになっているものが多く、購入までに大きな心理的ハードルが存在する。消費者にとっては思い切ってその大きなハードルを飛び越えなければ購入まで至らないというわけだ。
そこでリスク・リバーサルを導入すれば“買い手にあったリスクをすべて売り手が引き受け、購入までの大きな心理的ハードルを限りなくゼロに近づ ける”効果が発揮される。ただ、売り手側にとっては「冷やかし客などが増えて、返品率が著しく上昇し、企業の業績に多大な悪影響を与えるのでは?」と考え るマーケティング担当者もいるだろう。
●リスク・リバーサルの導入法
実際のところ、このリスク・リバーサルを導入すれば、返品率はある程度高まることは事実だが、それ以上に売り上げの飛躍的な向上につながるという統計も出ている(実際に弊社でも大きな売り上げの向上が見られた)。
問題はリスク・リバーサルの導入法である。ただ単に返金保障を行うだけでは、冷やかし客などをみすみす招き入れてしまうことになる。そこで返金に応じる際にはある一定の条件を事前に検討しておく必要がある。
例えばロッテリアの場合、同社のWebサイトに返金の条件を以下のように謳(うた)っている。
・半分以上お召し上がりになられた場合は返金できません。
・レシートと現物をご持参の上、購入店舗まで当日中にお申し付けください。
・今後の商品開発の参考にさせていただきますので、アンケートのご協力をお願いいたします。
・セットでご注文いただいても単品価格分の返金とさせていただきます。
・クーポン利用でご購入の場合は単品価格分をお返しします。
・インビテーションカードをご利用された場合は返金できません。
・お1人様1回のみとさせていただきます。
・個数限定のため、販売およびキャンペーンが終了する場合もございます。
※ロッテリアの公式Webサイトより引用
特に顧客から返金する理由を尋ねることは商品を改良していく上で非常に大きなヒントが得られ、長期的にみれば損失以上の利益を生み出す要素とも成り得るし、一般的なマーケティングコストと考えれば決して高いものではないだろう。
このような顧客のリスクを限りなくゼロに近づける“リスク・リバーサル”は、特に高額商品や高額サービス、購入するまでは内容を確認できないも のに威力を発揮する。今一度自社のビジネスモデルを分析し、顧客にリスクを背負わせていることが原因で売り上げが伸び悩んでいるようであれば、リスク・リ バーサルを導入することにより業績のブレークスルーが見込めるはずだ。